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歴史キャッチフレーズで描く

奈良時代の歴史

 

 

                                   成田喜一郎

 

1 はじめに

 

奈良時代に関する歴史教科書の叙述を見るに、

 

律令国家、平城京、太宰府、多賀城、口分田、戸籍、班田収授法、租・調・庸、雑徭、兵役、防人、木簡、出挙、貧窮問答歌、墾田永年私財法、荘園、遣唐使、阿部仲麻呂、鑑真、聖武天皇、東大寺、大仏、行基、天平文化、正倉院、古事記、日本書紀、風土記、万葉集、山上憶良、柿本人麻呂、大伴家持

 

などのキーワードが見られる。

 

わたくしたち社会科教師は、これらのキーワードを一つ一つ取り込みながら、あるいは、あるキーワードを軸としながら、奈良時代を学ぶ授業を展開してきた。

 

今後も教材・学習材の研究は大いに進められるべきであろう。

 

わたくしは、これら奈良時代のキーワードの間に見え隠れする歴史上の人物や様々な階級・階層の人々の立場や生活に注目し、あえてその様々な人々の視点から奈良時代の歴史像を描く試みをすることにした。

 

しかも、教師主導の「授業」ではなく、思い切って生徒主体の「協同学習」を軸に展開することにしたのである。

 

具体的には、生徒たちが学習班を基礎に、以下のような短歌に示された「協同学習」を行った。

 

短歌1 「子どもらが調べ考え練り上げて発表し合うキャッチフレーズ」

短歌2 「奈良時代あれこれあるも子どもらの心のままに進む学習」

 

 

2 主題と目標

 

(1)    主題

 

  様々な視点から奈良時代の歴史像を描く〜みんなで歴史キャッチフレーズを作ろう〜

 

(2)    目標

 

 わたくしは、本実践の学習目標を以下のように定めた。

 

@    様々な歴史上の人物や階級・階層の視点に立ち、奈良時代に関わる歴史的事実を調べ、理解する。

 

A    奈良時代に関する「歴史キャッチフレーズ」を創作し、発表および交流する。

 

B    学習班による協同学習をもとに、様々に異なる視点からの「奈良時代」の歴史像を構築ないしは再構築する。

 

こうした学習目標を定めた理由は、以下の通りである。

 

奈良時代とは、遣唐使の派遣や鑑真の来朝・天平文化をはじめ国際交流が深まり、国際色豊かな時代であり、天皇・中央貴族・僧侶・地方豪族・農民など、様々な階級・階層の人々が歴史の舞台に顕在化してくる時代であると言ってもよい。

 

こうした歴史的国際的環境の中で、様々に異なる立場から奈良時代を捉えることは、歴史像を豊かにするうえで価値あることであるばかりではなく、その後の歴史学習における歴史的な見方・考え方を鍛えることにもなるからである。

 

また、「歴史キャッチフレーズ」の創作というゲーム的要素を持った作業的体験的学習や様々な立場に立つロールプレイング的学習の手法を取り入れることによって、生徒の関心や意欲を引き出すことができると思われたからである。

 

さらに、このような生徒主体の協同学習は、教師に多面的な評価場面を提供することができるからである。

 

 

3 学習内容の構成と展開(3時間扱い)

前 時  東アジア史の中の「大化の改新」

 

第1時  みんなで奈良時代をキャッチする

 

(1) 良時代と聞いてイメージする人・物・事・時は何か?

(2) さあ、歴史キャッチフレーズを作ろう。

@ キャッチフレーズとは何か

      「人の注意をひくように工夫した簡潔な宣伝文句」(広辞苑)

      事例  深川英雄(1991)『キャッチフレーズの戦後史』岩波新書

A歴史キャッチフレーズの作り方

     ア) 学習班ごとに歴史を見る視点・立場を定める。

         天皇  中央貴族  僧侶  地方豪族  遣唐使  農民など

     イ) 資料を読み込む。(教科書・資料集、図書館の本など)

     ウ) 定めた視点・立場で、ノートに略年表を作る。

     エ) その時代の特色をつかむ。

     オ) 班ごとにキャッチフレーズを創作し、その解説を書く。

【評価の重点】

  ◎ 学習班の活動を通じて、奈良時代に関する知識や理解、資料活用の技能と表現の評価をする。

 

2時  歴史キャッチフレーズ/謎解き合戦

 

   (1) 前時の確認をしよう。

    @ 班で1つ、代表歴史キャッチフレーズを決めてあるか。

    A 歴史キャッチフレーズと解説を画用紙にそれぞれ1枚ずつ書いてあるか。

   (2) みんなが作った歴史キャッチフレーズの謎を解こう。

    @ 班ごとに歴史キャッチフレーズを提示してゆき、その他の班がその意味や謎を解く。

    A 正解は、解説カードを提示しながら解き明かしてゆく。

   (3) 奈良時代の歴史像を問い直し、本時の学習活動について、各自のノートに感想と意見をまとめる。

   【評価の重点】

◎ キャッチフレーズの謎解き合戦を通して、思考・判断、関心・意欲・態度の評価をする。

 

3時  奈良時代がわたくしたちに語るもの・みんなが見落していたもの

 

(1)    様々に異なる視点や立場から奈良時代を学び得た成果や疑問は何だろう。

・ 外国人や奴婢の欠落

   (2) 今回の学習でみんなが見落していたものは何だろう。

     ・  記紀、風土記、万葉集

   【評価の重点】

   ◎ 自己評価・相互評価を行わせる。

 

次時  阿弖流為(アテルイ)と田村麻呂

 

 

4 生徒の作った歴史キャッチフレーズ

 

(1)    天皇の視点で

 

「一声二百万人、あなたは集められますか」

 

この時代は天皇が権力を持っていた時代であった。743年、聖武天皇が大仏建立の詔を出した。そして、のべ200万人の人々が働きに出ることになった。

 

(2)    中央貴族の視点で

 

「土地広げ、地位を取れ取れ、楽しく遊べ」

 

中央貴族は逃亡してきた農民などを使って原野を切り拓き、私有地を広げていった。また、天皇家とつながりを持ち、地位をあげようとした。農民などを働かせ、自分たちは財産を増やし優雅に暮らしていった。

 

(3)    僧侶の視点で

 

「広めろ築けよ民のため」

 

行基は、僧の法律を違反してでも民衆のためを考え、仏教を広めたり、橋や溝を築いたりした。その後、信頼を得て大仏を作る民衆を集めることができた。

 

(4)    遣唐使の視点で

 

「唐への長旅/文化検討、荒波健闘、果たして賢答はあったのか」

 

遣唐使は、7世紀には朝鮮半島西岸沿いの北路をとったが、白村江の戦いののちは、新羅との関係がわるくなったため、8世紀以後は東シナ海を横断する危険な南路を通った。また、そのころはまだ造船や航海の技術が進んでおらず、遣唐使の船はしばしば遭難した。しかし、彼らは、危険をおかして荒海を越え、はるばる唐の都へのおもむき、唐の文化を日本に伝えようとした。

 

(5)    地方豪族の視点で

 

「上にごま、下には辛子、我が身に砂糖」

 

地方豪族は、中央貴族と農民の間で、中央貴族にはごまをすって、苦しんでいる農 民にはムチを使って厳しく取り締まり、自分の立場がよくなるようにしていたのでは ないだろうか。

 

(6)    農民の視点で

 

「逃げたい、剃りたい、だましたい」

 

奈良時代の農民は、租・調・庸・雑徭・兵役・防人など重い税や義務を課せられるので、逃亡したり、僧となって浮浪したり、戸籍をいつわって男の子を女の子として届けたり、ささやかな抵抗をしていた。

 

5 むすびにかえて

 

子どもらの主な感想や意見を見ると、以下のとおりである。

 

「歴史キャッチフレーズというのは、川柳や狂歌のように、その言葉の中に時代への皮肉や象徴がぎっしりとつまっていなければならないと思う。そのためには裏付けとなる資料がたくさん必要になるから、その時代の理解を深めるのは大変いい方法だ。」(直明)

 

「奈良時代に生きた一人一人の考え方は、その立場によって様々であったことがよ〜くわかった。」(美和)

 

「班ごとに立場を分担したのでいろいろな人々の立場に立てなかったのは残念だったが、他の班の作品を見て、なるほどなあとか、こうしたらいいのになあと思うこともあったのでよかった。」(裕美子)

 

半年後の意識調査によると、この実践に対する生徒(134名)の評価は、以下の通りであった。

 

やって良かった、またやりたい 85.1%

どちらとも言えない       5.9%

やる目的が分からなかった   4.5%

覚えていない          4.5%

 

この実践を終えたわたくしは、「子どもらに学ぶことこそ多かりき多弁を廃し多聞に徹する」(短歌3)生徒主体の「協同学習」の意義を改めて噛みしめている。

 

しかし、「やる目的が分からなかった」「覚えていない」「どちらとも言えない」という生徒たちの声を批判や提言として受け止めて、より一層学習目標の具体化と意識化、内容と方法の改善に力を注いでゆきたいと思う。

 

 

     本校は、拙稿(1995)「様々な視点から奈良時代の歴史像を描く社会科歴史の学習〜みんなで歴史キャッチフレーズを作ろう〜」( 『教出ホットライン』教育出版、VOL.4)に加筆訂正したものです。

 

 

【追記】

 

短歌1 「子どもらが調べ考え練り上げて発表し合うキャッチフレーズ」

 

短歌2 「奈良時代あれこれあるも子どもらの心のままに進む学習」

 

短歌3 「子どもらに学ぶことこそ多かりき 多弁を廃し多聞に徹する」

 

短歌4 「しかれどもわたくしがする仕事とは事前と事後とを結ぶ指導ぞ」

 

短歌5 「指導とは子どもが学ぶ場をつくるPLANとDOとSEEのサイクル」

 

短歌6 「子どもらが学びの主となるために予察と評価が欠かせぬ支援」

 

短歌7 「予察とは子らの学びをあらかじめ予想・予測し察知すること」

 

                       詠み人 寺澤満春

 

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