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人間史(じんかんし)学習
 
坂本龍馬の生涯と幕末・維新
 
成田喜一郎
 
 
 
 
 
1.単 元 名  開国と幕府の滅亡  坂本龍馬の生涯を中心に  
 
 
 
2.単元の目標
 
 幕末に生きたひとりの人物、坂本龍馬の生き方と彼の出会ったさまざまな人物との交流の歴史を通して、欧米諸国の接近とそれへの幕府の対応から開国と幕府の滅亡に至る過程のあらましを理解させる。
 また、国際的な視野や広いものの見方の大切さ、歴史における人物及び人間関係の果たす役割に気付かせる。
 
 
 
3.単元設定の理由
 
 本単元は、「国家・社会及び文化の発展や人々の生活の向上に尽くした歴史上の人物に対する生徒の興味や関心を育てる指導とともに、それぞれの人物が果たした役割や生き方などについて時代背景と関連付けて考察させるようにすること」という留意点に基づいて設定されたものである。
 
 坂本龍馬は、1835(天保6)年11月15日、土佐の高知に生まれ、1867(慶応3)年11月15日、京都の近江屋で暗殺される。
 
 33歳という短い生涯ではあったが、開国から幕府の滅亡に至る時代の急激なる変化の中を、国際的な広い視野に立ってわが国の将来を考え、行動したひとりの歴史上の人物として、注目に値する。
 
 また、狩野派の画家でもあり、ジョン(中浜)万次郎から海外事情を聞き出し、『漂巽紀略』を著した土佐の河田小龍や勝海舟・西郷隆盛・木戸孝允との出会いは、歴史の発展における人物とそのネットワーク(人間史)の果たす役割の大きさにも気付かせてくれる。
 
 開国から幕府の滅亡に至る時代の変化と坂本龍馬の思想と行動の変遷とを重ね合わせながら、本単元の教材の内容と構成を考えたい。
 
 
 
4.生徒の実態
 
 最近、一般に言われるような生徒の「歴史離れ」が目につく。
 
 実際に、社会科の学習指導を行ってみると、全体として歴史的分野に対する生徒の興味・関心は、十年ほど前に比べかなりの程度低下している。
 
 歴史が嫌いな生徒の大半は、歴史への興味・関心を持つ術をほとんど持ち合わせていないと言っても過言ではない。
 
 それは、現代の高度情報化社会において生徒たちは、以前に比べ、自分の日常生活、趣味・遊び・スポーツ・勉強などにおける即時的な情報の選択と活用が求められるという多忙な個人生活に大半の時間を割かざるを得なくなった。
 
 従って、彼らは、極自然な形で家族や地域の人々などから、それとなく歴史や人物が語られ、伝えられるというの歴史的文化的伝承の体験が減少し、歴史への興味・関心を持つ術を容易に形成することができなくなっている。
 
 しかし、一方で、少数派ではあるが、滅法歴史が好きな生徒がわずかながらいるのも事実である。
 
 彼らの好みは、主に三国志の時代やわが国の戦国時代の歴史上の人物へ傾斜している。
 
 彼らは、事細かな歴史的事実やエピソードをよく知っており、またかなり具体的なイメージを持っていることが多い。
 
 それは、なぜかというと、まず、人気のファミコン・ソフトの中の「三国志」「信長の野望 戦国群雄伝」などにチャレンジした経験を持っていることが挙げられる。
 
 そして、その経験の前後には、自ら進んで活字の『三国志』などを読んだ経験を持っていることも指摘しておきたい。
 
 従って、彼らは、激動の時代に登場する歴史上の人物とその歴史的背景に関する具体的な情報を持っているのである。
 
 つまり、昨今の現象は、「歴史離れ」などではなく「歴史知らず」から来る歴史嫌いである、と言っても過言ではない。
 
 従って、この問題を解決するためには、まず、歴史への興味・関心を持つ術を持たせる必要がある。
 
 そのためには、特に、「激動の時代における歴史上の人物」の学習が、「歴史知らず」の生徒の目を覚ます、ひとつの有効な方法であると考えられる。
 
 そして、われわれ社会科教師は、ファミコン・ソフトにそれを任せるのではなく、自らの力で、歴史と人物を編み込むための教材研究と授業実践を行わなければならない。
 
 
 
5.指導内容の構成 開国と幕府の滅亡−坂本龍馬の生涯を中心に−(6時間扱い)
 
 
<第1時> 欧米諸国の接近と龍馬の少年時代
 
龍馬が生まれた1835(天保6)年11月15日から、剣術修業のため江戸に赴く1853(嘉永6)年3月までの時期を中心に、欧米諸国の接近の様子とその理由を理解させ、また生徒の興味・関心に留意しながら、龍馬がどのような少年時代を送ったのかをつかませる。
 
<第2時> ペリー来航と江戸に来ていた龍馬
 
1853(嘉永6)年6月、ペリーの来航の原因と背景、幕府の対応と江戸庶民の「黒船騒ぎ」のありさまを理解させるとともに、江戸に来ていた龍馬の生活と行動、特に「黒船」以後、尊王攘夷運動へ身を投ずる龍馬にふれる。
 
<第3時> 開国と通商条約〜河田小龍との出会い
 
日米和親条約と日米修好通商条約の主な内容をつかませ、開国や不平等条約の締結など歴史的意義を理解させる。また、ジョン(中浜)万次郎からアメリカの事情を聞き出していた河田小龍との出会いから、龍馬が世界への目を開かれたことに気付かせる。
 
<第4時> 開国後の社会と経済〜勝海舟との出会い
 
安政の大獄や桜田門外の変、開国後の経済混乱など開国による社会・経済上の変動について理解させる。また、1860(万延元)年に渡米した経験を持つ勝海舟との出会いから、攘夷論者から開国論者へと転換す龍馬に気付かせる。
 
<第5時> 尊王攘夷から薩長同盟へ〜西郷と木戸を結ぶ
 
尊王攘夷運動から薩長同盟の成立に至る歴史過程のあらましを理解させる。また、西郷隆盛と木戸孝允とを結ぶ龍馬の役割に気付かせる。
 
<第6時> 龍馬の構想〜大政奉還への道(本時)
 
坂本龍馬の「船中八策」の読み取りを通じて、大政奉還・王政復古の歴史的意義を理解させる。また、龍馬が時代に先駆けて、思想と行動を転換させることができた理由を考えさせる。
 
 
 
6.本時の指導  「龍馬の構想  大政奉還への道」<第6時>
 
1)ねらい
 
坂本龍馬の「船中八策」の読み取りを通じて、大政奉還・王政復古の歴史的意義を理解させる。
また、龍馬が時代に先駆けて、思想と行動を転換させることができた理由を考えさせる。
 
(2)本時の展開
 
 
 
龍馬の思想や行動はどのように変わってきたのか、資料を読み確認させる。
 
 ◎資料「短刀・ピストル・万国公法」を読ませる。
 ○変わり身の早い龍馬
 ◎龍馬の生涯と重ね合わせ、考えさせる。
 ○時代を先取りする龍馬 
  ・短刀期 :尊王攘夷運動に走る龍馬 
  ・ピストル期:薩長を結び討幕につくす龍馬 
  ・万国公法期:統一国家建設の構想を立案する龍馬
 
 
レポート「龍馬の『船中八策』」を生徒に発表させその歴史的意義を理解させる。
 
 ◎事前に『船中八策』の内容とその影響を中心に、5W1Hの観点で調べさせる。
 ○『船中八策』が国際的な視野に立った統一国家の構想であったこと。 
 ◎『八策』のうち、大政奉還、議会政治、国際交流と条約改正、憲法制定、金銀比価の改  定などの項に着目させる。
  ・後藤象二郎→山内容堂→徳川慶喜による大政奉還の決断・王政復古へと展開したこと。
 ◎龍馬の詠んだ短歌「心からのどけくもあるか野辺はなほ雪げながらの春風ぞふく」を紹  介する。
  ・大政奉還の知らせを受けた龍馬の喜びを察する。  
 
 
龍馬が、なぜ、国際的な視野に立った統一国家の構想を持ちえたのか本単元の学習全体から考えさせる。
 
 ◎河田小龍や勝海舟などの出会いの意味を想起させ、考えるヒントを与える。
  ・国際的な視野や広いものの見方の大切さと歴史における人物及び人間関係の果たす役   割をつかむ。
 ◎情報カードに「坂本龍馬への手紙」かかせ、評価を行う。
 
 
 
7.評価
 
 ・大政奉還・王政復古の歴史的意義が理解できたか。
 ・国際的な視野の大切さに気づいたか。
 ・歴史上の様々な人物間の交流の意義に気づいたか。
 
 
 
8.資料
 
【資料@】[短刀・ピストル・万国公法]
 
ある日、龍馬は、同じ土佐の古い同志にであった。
そのとき龍馬は、その長刀を冷やかに眺めて、「無用の長物。いざという時に、かえって役にたつまい」といって、普通より少し短い自分の刀を示した。
しばらくたったある日、その同志はふたたび龍馬に出会った。
すると、龍馬は、いきなりふところからピストルを出して、一発ぶっぱなした。
「これが西洋の新しい武器だ、よく見ておけ」といったという。
それから三度目、またふたりが一緒になった時、龍馬はこんなことをいった。
「これからの世の中は、武力だけでは役にたたぬ。学問が大切だ。
おれはいま『万国公法』を読んでいるが、これが非常に面白い」と。
一冊の本をとり出したとのことである。
(池田敬正『坂本龍馬』中公新書より要約)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
【資料A】「年譜・坂本龍馬とその時代」
 
     坂本龍馬の年譜         西暦・元号         主な歴史の流れ

土佐の高知に生まれる(11月15日)

1835(天保 6)年

天保の飢饉の真っ最中/天保の改革始まる
<少年期>洟たれ泣き虫夜ばあたれ

剣術を学び始める
1840(天保11)
1848(嘉永元)年
アヘン戦争おこる(〜42)
 

<「短刀」期>::尊王攘夷運動へ


ペリーが来航する
日米和親条約が結ばれる

日米修好通商条約が結ばれる
安政の大獄が起こる
勝海舟が太平洋を横断する。
桜田門外の変が起こる
剣術修行のため江戸に出る
帰国し、河田小龍に会う
再び、江戸に出る




 
1853(嘉永 6)年
1854(安政元)年
1856(安政 3)年
1858(安政 5)年
1859(安政 6)年
1860(万延元)年
 

<「ピストル」期>:討幕運動への転換
脱藩/勝海舟に会う

横井小楠を熊本に訪ねる
京都で西郷隆盛に会う
下関で木戸孝允に会う
亀山社中をつくる
薩長同盟を成立させる
お龍と霧島へ新婚旅行にいく
1862(万延 2)年
1863(万延 3)年
1964(元治元)年

1865(慶応元)年

1866(慶応 2)年
 
生麦事件が起こる
長州が外国船に砲撃する。薩英戦争が起こる。
四国艦隊が下関砲撃事件を起こす。
第1次長州征伐が行われる


一揆・うちこわしが頻発する
第2次長州征伐が行われる

<「万国公法」期>:統一国家建設への「青写真」づくり
『船中八策』を後藤象二郎に示す
 京都の近江屋で暗殺される
   (11月15日、亨年33歳)

 
1867(慶応 3)年


 
大政奉還が実現する
討幕の密勅が下る
王政復古の大号令がなされる

 
(901015knarita)
 
 
 
 
9.参考文献
 
 @坂本龍馬に関する文献
 
  ・池田諭(1964)『坂本龍馬 平和と統一の先駆者』大和書房
  *池田敬正(1965)『坂本龍馬』中公新書
  ・木暮正夫(1974)『幕末にかがやく星 坂本龍馬』さえら書房
  ・(1983)『坂本龍馬 現代視点・戦国・幕末の群像』旺文社
  ・砂田弘(1985)『坂本龍馬 明治維新の原動力』講談社火の鳥伝記文庫
  ・永原慶二監修(1988)『坂本龍馬 学習漫画・日本の伝記』集英社
  ・芳岡堂太(1990)『坂本龍馬 男の値打ち』三笠書房
 
 Aその他の人物に関する文献
 
  *大江志乃夫(1968)『木戸孝允』中公新書
  *松浦玲(1968)『勝海舟』中公新書
  ・中浜明(1970)『中浜万次郎の生涯』冨山房
  *井上清(1970)『西郷隆盛(上)』中公新書
  ・(1983)『勝海舟 現代視点・戦国・幕末の群像』旺文社
 
 B幕末・維新期に関する文献
 
  *石井孝(1975)『明治維新の舞台裏(第2版)』岩波新書
  *芝原拓自(1977)『世界史のなかの明治維新』岩波新書
  *南和男(1980)『維新前夜の江戸庶民』教育社歴史新書
  ・加藤祐三(1985)『東アジアの近代』講談社
  *加藤祐三(1988)『黒船異変−ペリーの挑戦−』岩波新書
 
(注)*印:主として研究文献、・印:生徒向け文献
 
 
 
『現代社会科実践講座』第10巻(秀文出版)
所収、一部加筆訂正
 
 
 
 
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